岡田謙三の和船についての言葉

日本がつくった和船の美

 今泉 岡田さんはまた、日本の、和船の美しさというのをとても推奨おられるんだが、その話をちょっとしていただきたい。あれはだいぶ前でしたね。和船というものは美しいなということを言われたのは。

岡田 私は和船が一番好きですけれども、和船はしばしば話はせん(笑)。結局あれは一つの日本の、一目瞭然です。嵐山にある船を見ても、海で漁をしている船を見ても、ただ見ているだけでどうしてあんなに美しいのだというようなことを考えさせられない。そのくらい純粋そのもの、というとおかしいが、そのものです。ちっとも理屈っぽくないし、ほんとうの自然なんですね。それが長い間かかって日本の、日本でなければない、日本でなければつくれないようなものの一つの例、それが日本の和船ですね。

今泉 出雲大社がりっぱだとか、あるいは桂の離宮が非常に美しいということは言った人もいます。だけど和船というものが実に日本的な造形で、独特の美しさを持っている、ということを強調されたのは岡田謙三がはじめてだと思うんですよ。岡田さんはいま照れて、和船の話はせんなどとしゃれておられたが(笑い)、これは岡田さんの独創的な発見ですよ。いまだかつて言った人はないもの。

岡田 だれもいやせん(笑い)。いや、ほんとうかな。

今泉 ほんとうだよ。

岡田 僕はある建築家に「あの和船の美しさを建築にもしできたら、僕だったらそんなふうなことをやりたい」といったら「とてもとてもできそうにありません」という。船と建築は違うという意味じゃないですよ。ああいうりっぱなものは形を変えることができない。あまりにもそのものだから。

今泉 そうですね。それを指摘されたということは、岡田さんはいまあまりたうしたことに思っておられないかもしれないけれど、後世これはたいへん重要な発言なると私は思いますな。というのは、美しさというものはだれかが発見してくれないと、一般の人はついていけないものです。桂離宮がいいといっても、ブルーノ・タウトがこれをいうまではみんなほとんど問題にしなかったんです。和船なんていうのはみんな日常観ているものでしょう。あんな形よりもボートとかゴンドラとかいうもののほうが、そういうバタくさいものんほうがいい。形の美しさについてはそういうものに何となくあこがれる気持ちがあったでしょう。それによってわれわれは、西洋文化というものにひかれていた証拠みたいなものだと思う。ところが、和船は美しいじゃないかといわれると見直す。なるほど美しいんですね。たとえば面の組立てだって、複雑なんだけれども簡素にサラッとやっているじゃないですか。あれは建築にはできないような相当複雑な組立てとカーブを持っています。板っぺら打ちつけてやっているんだけれども、その軽みと重みとが非常にうまいバランスをとって簡素でしかも一種のディグニティ、威厳を持っているんだな。だから和船の美しさを言われたことは、岡田さんが自分で思っておられるよりも、もっと大きな意味を持っているんですよ。

岡田 そういう和船の美しさを自分が絵の中へよろうと思うけれども、なかなかうまいぐあいにいかない。いつか和歌山県の那智の滝を見たとき、これこそがほんとの日本の滝だと思って、富士山と那智の滝とは日本の代表の好一対みたいな感じがするんですが、それで僕は忘れないうちに、うちへ帰って那智の滝を描いてみた。ただ記憶をしようと思って描いた。とてもとてもかけやしません。絵かきなんかでは、仕事のやりかたは科学者と同じようなふうだということも言えると思うのです。たとえば世の中に新しいものはない、ということは、あるものをたまたま自分が見出したので、というようなふうで「新しいものって何ですか」と人に聞いてごらんなさい。それに返答できる人はいないと思うね。
今泉 だからやはり岡田さんが和船が美しいと思われたということは同時に一つの創造なんだ。そしてわれわれの心や眼をちょっと洗い落としてくれたんです。外国から帰ってきたいろんな人が日本がいいということを言うけれど、岡田さんの日本発見というのは大げさにいうと日本の文化史、造形的な歴史の上ではかなり重要な意味を持っていると思う。どうです、このくらい僕がほめたら……(笑)。

岡田 少しお酒に酔っぱらったみたいになりました。

  

この対談は雑誌『料理手帖』(1966年8月号)に掲載されたものです。当時国立勤惰愛美術館京都館長・今泉篤男を聞き手とする「味楽談楽」と題した連載です。岡田との対談は「離れてわかる日本のよさ」「素足にげたをはいて歩きたい」「日本がつくった和船の美」「うまいまずいは胃袋のせい」「食べなれると好きになる」とした五つの小見出しからなっています。
                                                           
 
 
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