画家 岡田謙三の世界 
 Kenzo OKADA
 岡田謙三とロックフェラー

                      ロックフェラー家の美術品
 当日は生憎の雨だったが、専用バスで丘を登ると,蔦に絡まれたクラシックな石造りの四階建ての建物に着く。前には左右相似のイタリア式前庭が開け、大きな噴水が水を吹き上げている。
 入り口の片隅にさりげなく置かれているのは近代彫刻の巨匠・ブランクーシとジャコメッティの作品だ。入ってすぐ左がオフィス。初代ロックフェラーが九十七歳で死ぬまで働いた所で、英国式家具と中国陶器で飾られている。
 右手は一家の主婦が婦人客を接見する客間で、小ぶりのシェトラン家具が置かれている。アビー・アルドリッチ夫人がよく使った部屋で、近代美術館設立の相談などがここでされたに違いない。案内人が親切に解説してくれるが、部屋のあちこちに置かれた高価な中国陶器を触ったり壊したりせぬよう監視しているのだろう。
 ミュージック・ルームは、酒もダンスもやらぬ家族が集まって、パイプオルガンを楽しんだ部屋で、二、三階の天井が吹き抜けになっている。今はオルガンは取り外され、あとにホワン・ミロの大きな絵が掛かっているが、ここにあるのはレプリカで本物は近代美術館にある。
 各国の首脳やフォード大統領も食事をしたというダイニングルームは、十八世紀の英国家具で統一されている。J・ロックフェラーの肖像は、アメリカを代表する肖像画家J・S・サージェントが描いたものだ。
 ダイニングルームの横のティールームは、ハドソン川の絶景が一望の下に見える居心地のよう部屋だ。壁には岡田謙三の「高山寺」が掛かっている。紅葉と鳥羽僧正の鳥獣戯画で名高い京都の風景を、深い緑と茶と灰色を使って半ば抽象の手法で描いたもの。この美しい作品を選んで、ここに掛けたセンスの良さは並のものではない。
 外の庭園には、ネルソン・ロックフェラーが集めた彫刻が並べてある。ムーア、カルダー、デイビィッド・スミス、ネヴェルスン、マイヨール、イサム・ノグチ、ナガレ(流政之)など抽象、前衛作品中心に百点余り。
 ネルソンはニューヨーク州知事、フォード大統領の副大統領を務めた政治家で、彼が死んだ時、場所が女秘書のアパートで死亡報告が遅かったので、色々噂が飛んだが、ここに集められた作品のレベルの高さを見ると、彼は時代を先取りする優れた眼を持った人であったと再認識した。雨に洗われ、広々した庭園に置かれた彫刻群は、美術館で見るよりずっと生き生きとしていた...
            <青木博『ニューヨークの花盗人』 文藝春秋社より>

 
     
  ネルソン・ロックフェラー